清華大学 Schwarzman Scholars 留学記

2019年9月より清華大学(Schwarzman Scholars)に留学。日々感じたことを綴っていきます。

オリエンテーション② ~リーダーシップとは何か~

映画からオリエンテーションに話を戻しましょう。

 

オリエンテーション後半戦、最も重点を置かれたのはLeading Livesという名のワークショップでした。3日間、合計8時間ほどかけて取り組むワークショップで、

  • リーダーとはどうあるべきか/リーダーが重視すべき価値観、
  • 人の話を「聞く」とはどういうことか、
  • これまでの人生を振り返って、どのように自分自身が困難に対処してきたか、
  • 学院内ではどのような困難に直面する可能性があるか、
  • どのようにその困難に対処していくべきか、

等について7~8人で議論をします。

 

印象に残ったのは「調整型リーダーシップ」が徹底重視されていた点です。

リーダーシップと聞くと、私は周囲をぐいぐいと引っ張れるカリスマ性をぱっとイメージするのですが、今回のワークショップでは所謂「調整型リーダーシップ」の重要性を篤と説かれました。

学院内のダイバーシティを考えれば、強烈なビジョンを示して他者の共感を得ながら物事を進めていくよりも、相手の話にきちんと耳を傾け、相手と自分の意見にどのような違いがあり、その根本的な原因を考え、組織にとってベストな解を導けるリーダーの方が重要なのかもしれません。

 

相手のことを理解する力を得る、ということで、ワークショップでもかなり長時間を割かれたのが「Active listening」というコーナー。(日本語だと「積極的傾聴」とも訳されるようですね。)

人の話を聞く際、

  • 自分は相手の話を途中で遮っていないか?
  • 相手の話に割り込んで自分がその話の結論を出してしまっていないか?
  • 相手の話の途中で自分の回答を頭の中で用意していないか?また、まったく別のことを考えていないか?
  • 会話の直後であるにもかかわらず、相手の発言を思い出せないことはないか?
  • 自分の発言が会話の60%以上を占めていないか?

等の項目が記載されたチェックリストを渡され、自分の聞く態度についてリフレクションをします。

その後、ペアになって相手の家族や故郷の話を聞くのですが、その際に「Active listening」、即ち相手の話にきちんと耳を傾けることで、話者自身も自分と正面から向き合う機会を持つ、という実践をすることが求められます。

弁が立つ同級生が圧倒的に多い中、このActive listeningに苦労した人も多いようです。どうしても話の途中で口を挟みたくなってしまう、とか。恐らく自分の意見を表明することの重要性を叩き込まれてきたことが多いに関係しているのではないかと思います。
私はといえば、人の話を聞いている時間の方が比較的多いタイプですが、「自分が喋らない=良いリスナーである」という等式は成り立たないと痛感しました。特に英語だと、どう質問を返し、自分の意見を言うか頭の中で考えがちです。


もしかしたら、米国をはじめとした多くの国において、これまで自己主張を重視しすぎたために相手を理解する姿勢が欠如し、問題解決から遠ざかってしまったという反省があるのかもしれません。
日本でも書籍「聞く力」がベストセラーにもなりましたし、これからはこの「Active listening」が更に大きなブームになる可能性もあるでしょう。

 

相互理解においては素晴らしいことだと思います。但し、「聞く力」の(過度な)重視による弊害があるとすれば、今度は自分の意見を持たない/主張できない人になってしまう可能性があるところでしょうか。そう考えるとまた何年後かには「主張する力」への揺り戻しも起こり得るでしょう。

結局、リーダーをリーダーたらしめる能力とは、聞く力と自己主張のバランス感覚なのだろうと思います。そしてその感覚とは後天的に獲得できるものであり、自分とかけ離れた価値観を持つ人々との経験を積み重ねていくことで、身に着けていくことができるのでしょう。自分と違う考えとの対峙は時に苦痛を伴うものでもありますが、積極的に実践していきたいと思います。