清華大学 Schwarzman Scholars 留学記

2019年9月より清華大学(Schwarzman Scholars)に留学。日々感じたことを綴っていきます。

中国映画「狗十三」―中国式教育の失敗?

2018年に公開された「狗十三(英語タイトルはEinstein and Einstein)」、オンラインで見ました。
子どもに多くを期待する「中国式」ともいえる家庭教育が、子どもをじわじわと壊していくようなストーリーで、見終わった後ももやもやが残っております。。。

 

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画像はAsian Diamondsより

舞台は2008年(2006年だったかも?)ごろの西安。13歳の少女、李玩(Li Wan)とその家族のお話です。両親が離婚したため李玩は祖父母と暮らしており、父は二番目の妻と新しい家庭を築きつつも、李玩のところにもちょこちょこ顔を見せるような生活でした。
ある日、父は李玩の遊び相手に、と犬をプレゼント。李玩は犬を爱因斯坦(アインシュタイン)と名付け、信頼関係を築いていきますが、とあるアクシデントによりアインシュタインは脱走。周囲の大人が脱走したアインシュタインをないがしろにする対応を取ったことを機に、父と娘、そして祖父母と娘の対立が深まっていきます。

 

…あらすじを書くのが下手すぎて非常につまらなそうな話に見えますが、じんわりと心にくるような面白さがある映画です。(はじめの30分くらいは実際つまらなくて見るの止めようかと思いましたが、最後まで見て正解でした)
撮影は2013年ですが、公開が5年間禁止され、2018年にようやく解禁となった映画です。禁止されていた理由は、途中に李玩のシャワーシーンがあるからだったそうです。時間にして1分もありませんが…

 

この映画で幾度も出てくるのが、子(娘)vs親の対立
例えば犬が逃げてしまった時に「別の犬飼えばいいんでしょ」と軽くあしらう父や祖父母vs抵抗する李玩。物理が大好きで、学び続けたい李玩vs物理なんてどうでもいいと思っており、無理やり娘に英語を学ばせる父。挙句の果てには娘と出かける約束を守らないまま上司との会食に13歳の娘を同行させ、酒を飲ませる(そんなことありえるのか??)といった、子どもを意のままに操ろうとする親の姿がありとあらゆる場面を使って映し出されていきます。

 

中国の家庭においては、子どもは「听话(tīnghuà)=従順、人に逆らわない」 かつ「懂事(dǒngshì)=聞き分けが良い」であることが良しとされると言われます。中国というかアジアでとりわけ強い傾向かもしれませんね。映画でも、当初父親に強く反抗する李玩ですが、次第に自我を主張する情熱を失い、聞き分けの良い子どもになっていきます。
親にとってはそれが正しい子育ての結果かもしれません。一方、子どもは個性を消し去り、夢を諦めて親の願いをかなえることが「成長」と理解していきます。それが正しい子育ての在り方なのか、作品を通して問いかけています。

 

同時に、中国において未だに根強い性差別があることもこの物語は浮き彫りにしています。例えば、父と二番目の妻の間に息子(李玩からすると異母弟)が生まれるシーン。「李玩が生まれた時は女の子だから適当に名前つけたけど、男の子だから今回はちゃんと名前考えようなあ」という祖父の衝撃的な発言がさらっと出てきます。
また、李玩は何から何まで否定されて生きている一方、弟は周囲から溺愛され、「小皇帝(※一人っ子政策以降、過保護な親の元で育った子供)」ぶりを発揮していきます。


なお、タイトル「狗(=犬)十三」は、映画に出てくる「犬」と主人公の年齢(「13」歳)にちなんでつけられています。
しかしそれだけでなく、十三の英数字「13」が「B」のようにも見えることから、中国語のめちゃくちゃ汚い言葉である「逼(bi)」という言葉とも掛け合わせた意味合いを持っているらしいです。英語のFワードに近い感覚だとか。それだけ強い言葉で今の家庭教育の在り方を批判しているとも取れるのでしょう。

 

10年以上前の物語の設定とは言え、現代の中国の家庭教育にも間違いなく通ずる部分はあるでしょう。中国の青少年、とりわけ少女が受ける圧力を鮮明に描写している作品でした。中国の教育や現代社会などに関心がある方にはおススメです。