清華大学 Schwarzman Scholars 留学記

2019年9月より清華大学(Schwarzman Scholars)に留学。日々感じたことを綴っていきます。

映画「アメリカン・ファクトリー」

オリエンテーション後半戦も終了しつつある…のですが、いったん北京で見た映画に話題を変えたいと思います。

 

米国人の同級生が主催してくれたMovie nightにて、netflixの映画「アメリカン・ファクトリー」を鑑賞しました。

米中の対立が激化する今、その解決がいかに困難か、ユーモアと皮肉たっぷりに提示してくれる名作です。国の対立という一見壮大なテーマが、米中の個人レベルでの衝突に落とし込まれており、視聴者も親近感を持ちながら鑑賞できます。

尚、本作はオバマ前大統領夫妻が設立したHigher Ground Productionsの第一作目です。

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2008年、リーマンショックの煽りを受けてGMオハイオの工場が閉鎖。8年後、中国の巨大ガラス企業、福耀(フーヤオ)のCEOが5億ドルを投じ、工場の操業を再開します。

GM工場閉鎖によって職を失っていた人々に希望を与え、地域経済の活性化も多いに期待されたものの、文化や働き方の違いにより米中の関係者は衝突、労働者がデモを始めるまでに関係は悪化。この状況に両者は何を感じ、どう対応していったのか、現場の裏側を取材しています。

米国関係者が中国の本社工場を訪れた際、中国人のintenseな働き方(軍のように点呼をとる様子など)や、春節の宴会の文化等にあっけに取られる様子は笑いを誘います。米国人の同級生も爆笑でした。

はじめは笑いごとで済まされる文化の相違も、労働者の働き方や安全な環境の確保にまで及ぶと事態は深刻化します。中国的には「当たり前」の働き方であっても、GM時代と比較して賃金は低下し、労働時間や事故は増える一方。労働者の不満は蓄積していきます。

 

私が本作で一番強い印象を受けたのは、中国人経営者が中国人労働者に対する講義にて、
「米国人は過剰なまでに褒められることに慣れてしまっており、自信過剰である。基本的に彼らは無能な人が多く非効率なことが多いが、褒めながら物事を教えていくように」との趣旨の内容を発言したシーンです。

 

なんたる傲慢さ。自国の文化、考え方、習慣が絶対的に正しいことを信じて疑わない姿勢は呆れを通り越して清々しさを感じてしまう程ですが、中国内で成功した多くのビジネスマンの間では共通認識なのかもしれません。

米国側のマネジメント層の間でも、中国人の考え方や文化が理解不能といった様子はあるものの、「あいつら馬鹿だからな」的な中国蔑視の発言はあまり出てきません(米国の製作会社の作品だからかもしれませんが)。多文化共生社会の米国の方が、違う文化を尊重することについては長けているのかもしれません。

 

本作を見た米中の観客が、目下の米中の衝突を解決できるとの希望を持ち、両国のビジネスを発展させていきたいと考えるか?正直NOでしょう。しかし、本作が米中の相互理解の一助となることは間違いありません。

中年の経営者世代になってから初めて相手の文化を一から学んでいくことは、若い世代が思う以上に難しいことなのかもしれない。
Schwarzman Scholarsのような世界各国の若いリーダーの交流を促進するプログラムは、数十年後にもその価値を大いに発揮するのかもしれない、と思ったMovie nightとなりました。