清華大学 Schwarzman Scholars 留学記

2019年9月より清華大学(Schwarzman Scholars)に留学。日々感じたことを綴っていきます。

「空母いぶき」に思うこと

最近は出発までの準備で映画を見る暇もなくなってしまったのですが(アラジン見たかったなあ…)、少し前に映画「空母いぶき」を見てきました。かわぐちかいじさん原作の同名漫画が原作、主演は西島秀俊さんです。

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あらすじ(公式HPより抜粋)

20XX年、12月23日未明。未曾有の事態が日本を襲う。沖ノ鳥島の西方450キロ、波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸、わが国の領土が占領されたのだ。海上自衛隊は直ちに小笠原諸島沖で訓練航海中の第5護衛隊群に出動を命じた。その旗艦こそ、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》だった。計画段階から「専守防衛論議の的となり国論を二分してきた《いぶき》。艦長は、航空自衛隊出身の秋津竜太一佐。そしてそれを補佐するのは海上自衛隊生え抜きの副長・新波歳也二佐。現場海域へと向かう彼らを待ち受けていたのは、敵潜水艦からの突然のミサイル攻撃だった。さらに針路上には敵の空母艦隊までもが姿を現す。想定を越えた戦闘状態に突入していく第5護衛隊群。政府はついに「防衛出動」を発令する。迫り来る敵戦闘機に向け、ついに迎撃ミサイルは放たれた……。
息もつかせぬ展開と壮大なスケールで描かれる、戦後、日本が経験したことのない24時間。日本映画界を代表する俳優陣が集結して贈る、超ド級のエンタテインメント大作がここに誕生する。

結論、宣伝通り「エンタテインメント」作品としては非常にスリリングで面白かったですが、原作を読んでから見たためか、多少の違和感を覚えました。軍事のテクニカルな面についてはそもそも知識があまり無いため特段の指摘はできないものの、違和感の原因は、恐らく原作とあまりに違う設定、そして第三者(特に敵)の目線の欠如です。

 

原作と違う設定

原作では中国の工作員による尖閣上陸/占領が日中間の軍事衝突の発端となるわけですが、映画では中国をはじめとした周辺国への配慮から、「国籍不明の武装集団」が「(存在しない)波留間群島初島」に上陸するとの設定になっています。仕方がないとは言え、ここで一気にリアリティが無くなってしまいます。

恐らく原作は、

  • 急速な中国の軍事力の拡大や南シナ海等での度重なる軍事行動等を踏まえて、日本として米国に依存した安全保障を維持していくべきなのか?
  • 日本における「軍隊(軍事力)」はどうあるべきなのか?
  • 専守防衛の徹底が日本を守るベストな手段なのか?

といった問題提起をすることを意図して描かれたものと思うのですが、映画ではそもそもの前提にリアリティが無いため、SFモノのように「自衛隊vs悪の勢力」という対立描写で終わってしまっています。

 

三者(敵)の目線の欠如

原作では敵(中国)側の軍人や政府高官の描写があり、敵も血の通った人間であることが表現されていますが、映画では殆どありませんでした。一度敵の顔と表情が見えるシーンもありますが、人種すらもよくわからないような描写でした。

子供向けアニメのような「正義vs絶対的悪」という構図にあてはめるのではなく、敵の立場の人間も同じように守るべき家族を持ち、死を恐れ、本来的には平和を望んでいる存在であることをしっかり明示する必要があったのではと感じます。

一般市民や女性が戦闘についてほぼ無知な存在として描かれることも、多少なりとも違和感があります。「総じて戦闘の実態を知らない国民」という状況の説明をしているだけであり、無駄に長い。また、混迷を極めているであろう他国との外交交渉や支援取り付けについての描写は殆どありません。

 

纏めると、手に汗握るエンターテインメント作品としては素晴らしいものだけれども、原作が恐らく読者に提起したかった問題意識とは大きくかけ離れたものになってしまったのでは、という感想です。

大前提として戦争は絶対に避けなければならないことであり、日本や世界各国の平和を維持する為に、日本はどうあるべきか?と考える良いきっかけを原作は与えてくれましたが、映画は少し違う印象でした。

原作の最終巻が年内に出るはずです。中国から読むのをとても楽しみにしています。